12V ACアダプターから±12Vを作る

DC/DCコンバーターICを使い、12V ACアダプターから±12V電源を作ります。

今回はLinear TechnologyのLT1370を使い、定格出力を±12V/2Aに設定します。ICの絶対最大定格は35V/6Aで、スイッチング周波数500KHzです。LT1070アプリケーションノートAN19の負から正の昇降圧コンバータ回路をLT1370の定数に合わせると以下のようになります。要はACアダプターの12V電源をGND/-12Vとして使って、そこからDC/DCコンバーターで24Vをブーストして作っています。

この回路は3Vから動くので、リチウムバッテリーの3.7VやUSBの5Vから任意の電圧を作るのにも使えます。部品選定でいくつか注意する点があります。

  1. LT1070はスイッチング周波数が40KHzなのでL1に150μHが必要でしたが、LT1370は500KHzなので12μH以上あれば十分です。LT1170の場合は100KHzなので60μH程度。
  2. L1には出力の約2倍の電流が連続して流れるので、2A×2=4A以上の定格電流が必要です。
  3. D1には±12Vの電圧が掛かりますので、12V×2=24V以上の耐圧が必要です。また出力電流の2倍の電流が50%デューティで流れるので、電流定格は2A×2×0.7=2.8A(RMS)以上必要です。今回は40V/5Aのショットキーダイオードを使用しています。
  4. LT1370にも±12Vの電圧が掛かり、ICの絶対最大定格が35Vなので15V→±15Vでほぼ限界です。±15V以上を作る場合はLT1370HVを使った方がいいと思います。
  5. C2にはD1と同じく2A×2×0.7=2.8A(RMS)のリップル電流が流れるため、これ以上の最大許容リップル電流が必要です。今回は固体電解コンデンサーを使っています。LT1370はスイッチング周波数が高いので容量は100μFで十分ですが、LT1170の場合は400μF以上必要です。
  6. C1もC2と同じリップル電流が流れるので、同じものにしておいた方が無難です。

定格出力電流が1Aで良いなら、それぞれ半分の値で済みます。

出来上がりはこんな感じです。中央にある15μHのコイルはTDKの表面実装部品ですが、秋月の100円両面スルーホール基板を使っているので、これ位大きな表面実装部品なら裏から半田を盛れば簡単に付けられます。またLT1370もタブを銅板に半田付けしてから不要な3,4,6ピンを折って2ピンを右に1.27mmずらすと、2.54mmピッチの基板に実装できます。LT1370のGND(4ピン)は銅板で接続します。

LT1370はLinear Technology社のICですので、LTSPICEを使うと簡単にシミュレーションができます。この回路だと+12V/2A出力時の立ち上がり時間は約7msです。またこの回路はDC/DCコンバーターのため、2A出力時にC2の+側で100mV程度のスイッチングによる電圧リップル(ノイズ)が発生します。しかしスイッチング周波数が高いためコイルL2,L3で効率良く落とすことができ、出力端子では0.04mV程度です。LT1170の場合は0.2mV程度です。また出力電流が半分になれば電圧リップルもほぼ半分になります。
LT1370には出力の約2倍の電流が50%デューティで流れるので、出力電流はコイルやコンデンサーを大きくして目一杯頑張っても3.4A程度が限界になります。DC/DCコンバーターの変換効率は80%〜90%なので、連続して±12V/2Aが必要ならば12V/4.2A以上の電源が必要です。ヒューズを入れる場合は10A位が適当です。


スペースが余ったので、M51957Bを使ったミュート回路を付けてあります。-11.5V以上でミュートが解除され、コンデンサー10μFで3秒ディレイします。12Vリレーの場合はリレーコイルの+側をGNDに、24Vリレーの場合は+12Vに接続し、−側をmute端子に接続します。コイルには逆起電圧吸収用のダイオードを忘れずに。

注意:この回路では入力電源の+側がGNDになるため、入力電源にパソコンのペリフェラル電源を使うとパソコンとGNDレベルが12Vずれてしまいます。パソコン用オーディオアンプの電源にする場合は、パソコンのオーディオ出力とオーディオアンプ入力の間にトランスを入れる必要があります。